ケモカインstromal cell-derived factor-1 (SDF-1/CXCL12)は、 その受容体CXCR4との相互作用を通じて胚形成や炎症等の生命現象に関与しています。 また、CXCR4はHIV感染のco-receptorであることが知られている他、近年、情報伝達系は 固形がん(膵臓がん、乳がん、小細胞肺がん等)の転移、慢性および急性リンパ性白血病の 進行、慢性関節リウマチの増悪等、各種の難治性疾患に関与することが指摘されています。 そのため、CXCR4はこれら難治性疾患に対する創薬標的として注目を集めています。 我々はこれまでに、多くの共同研究を通じて、カブトガニの防御ペプチドから導いた 14残基ペプチドからなるT140が強いCXCR4アンタゴニスト活性を有することを見い出しました。 T140はin vitroで強い抗HIV活性を示し、また、生体内安定型T140においてがん転移 (乳がん、メラノーマ)、リウマチ関節炎の症状の進行に対して有意な抑制効果を示しました。 現在、優れた効果が認められた生分解性ポリマーを用いる徐放性製剤による投与法の 最適化を検討しています。さらに、14残基のT140を基にさらなる低分子化と 非ペプチド化を行っています。ヒトに構成的に発現しているCXCR4の損傷を考慮して 臨床応用を慎重に進めることにより、SDF-1-CXCR4系の制御は、上述の疾病に対する 新しい創薬戦略として有望であると考えています。また、これらT140誘導体はCXCR4 の果たす役割を調べるためのケミカルプローブとして、国内外の共同研究者に広く利用され、 多くの新規な機能の発見に貢献しています。
研究内容・業績
- 研究内容
- ドラッグ・ディスカバリーのための構造固定化テンプレートの合成
- ペプチド結合等価体、機能性ペプチドメミティクの合成
- 中分子創薬: HIV感染、がん、関節リウマチをターゲットとしたCXCR4アンタゴニストの創製
- Protein kinase C (PK-C)結合活性の向上を目指した
diacylglycerol (DAG)の環化誘導体の合成&分子生物学的アプローチ - 中分子創薬: 新規概念によるHIVワクチンの創製および抗エイズ薬の開発
- バイオ(蛍光)プローブの創製と細胞表層タンパク質のイメージング研究
- タンパク質(protein kinase C等)-リガンド複合体の構造解析と薬物設計への展開
- HIV-1マトリックスタンパク(MA)を標的としたペプチド性阻害剤の抗HIV-1活性評価と創薬展開 (国立感染研・村上努第三室長、山本直樹センター長との共同研究)
- 動物モデルを用いたエイズウイルス感染症の発症機序の研究とワクチン開発 (国立感染研・森一泰主任研究官、山本直樹センター長との共同研究)
- 研究業績
- 最近の受賞